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Ennos (2020), pp.135,136
焼き物を作るうえでは一つだけ問題がある。水を通さない強いものになるような高温にまで熱するのは、きわめて難しいし危険なのだ。
第2章で述べたように焚き火は、少なくとも最初のうちは200〜300℃までしか温度が上がらず、揮発成分が蒸発しきって炭素だけが残るとようやく、最大で600℃くらいまで上がる。
新石器時代の人々は、地面に穴を掘ってその中で壷を焼くことで (史上初の焼き物窯だ)、温度を800℃くらいまで上げることができた。
その高温状態を維持するために彼らは、木を、炭素だけからなる新たな高密度のエネルギー源に転換させた。
そのエネルギー源とは木炭である。
木から木炭を作るうえで重要なのは、揮発成分がすべて出ていく300℃以上に加熱しながらも、残った炭素が燃えはじめる500℃以下に抑えることである。
人々はこれまでずっと、基本的に同じ方法でそれを実現してきた。
焚き火への空気の供給を少なくするという方法だ。
もっとも単純な炭焼き窯は、丸太を隙聞がないように積み上げて芝士で覆ってから、下のほうに火をつける。
全体に火が回るまでに数日かかり、その間、中を覗き込んでは、最適な温度で燃えつづけるよう空気の流入量を調節する。
木炭作りは長い時聞がかかってあちこちが汚れるし、木の重量が60パーセント以上も減少して、蓄えられていた化学エネルギーの半分以上が無駄になってしまうが,できた炭素の純粋な塊は乾燥木材の二倍のエネルギー密度を持っている。
また木炭には木の細胞構造が保たれているため、表面積が広く、酸素が流れ込んで急速に燃焼する。
木のかわりに木炭を使うことで、空気の流入量を増やさなくても窯を1000℃以上まで加熱して、より強く耐水性の高い焼き物を作.れるようになった。
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- 引用文献
- Ennos, Roland (2020) : The Age of Wood ── Our most useful material and the construction of civilization.
- Scribner, 2020.
- 水谷淳[訳]『「木」から辿る人類史──ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る』, NHK出版, 2021, pp.96-99
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