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Ennos (2020), pp.327-329
‥‥ 植林の普及はさまざまな面で重大な問題を引き起こした。
第一の問題は、木工材だけが有用な資源であると決めつけて、針葉樹やユーカリやチークなど、成長が速くて幹がまっすぐな樹木ばかりが植えられたことである。
広大な面積の広葉樹の原生林が切り拓かれて、かわりにこれらの木が植えられたことで、生物多様性が低下した。
温帯地方では、多くの広葉樹林が破壊されて針葉樹が植えられたことで、土壌が痩せるとともに、林床に日光が当たらず、下層の低木や草花が枯れていった。
イベリア半島ではユーカリの広大な森が広がって、在来の樹木が駆逐され、森林火災が起こりゃすくなった。
植林がもたらしたもう一つの問題は、たった一種類の樹木からなる広大な純林が増えたことである。
そのような森は強風や菌類の病気や病害虫にとりわけ弱く、森全体が破壊されることもある。
選択交配によって病気に強い系統を作ろうにも、木の寿命が長すぎるため、ほとんどなすすべがない。
そもそも樹木は従来の科学的育成法には適さないのだ。
さらに困ったことに、よく好まれる外国産の木はとくに病気に弱いし、在来の動植物を脅かす。
さらに、外来種とともに運ばれてきた新たな病害虫や病気が、抵抗力のない在来種を枯らしてしまうこともある。
世界中の森林にとって、これが最大の脅威だろう。
近年、ヨーロッパや北アメリカに新たな病気が驚くほどのスピードで侵入してきている。
ヨーロッパでは、幹に穴を開ける甲虫やカララ属の菌類によってトネリコが次々と枯れている。
この立枯病は、アジアに生育するヤチダモという広葉樹とともにロシアに偶然持ち込まれて、ヨーロッパ在来のトネリコに急速に広がり、いまでは壊滅的な被害をもたらしている。
アメリカでは、日本から木とともに持ち込まれた胴枯れ病によって、いまから100年前にクリが絶滅した。
そして現在、ナラタケ病が世界中に急速に広がって何百もの種の樹木を脅かしており、トウヒなどの有用な針葉樹やユーカリなどの広葉樹を次々と枯らしている。
ナラタケ病に耐性がありそうなのは、カラマツとカバノキくらいなのだ。
極めつきの問題は、短いタイムスケールで走りつづける現代の産業界に植林という手法がそぐわないことである。
新たに植えた木が50年後にどれだけ成長するかを予測するのは難しいし、最終的に生産される木材の価格を予測するのは不可だ。
その木材をほしがる人がいるかどうかすら予測できない。
そのため至るところの森で、投資をいっさい回収できない木が育ってしまう。
イギリスでは、第二次世界大戦後に植えられたカラマツのほとんどが強風のために大きく曲がってしまって木材としては使えないし、しかも多くの植林地が新たに侵入してきた疫病にやられている。
また、坑道の支柱にするために頑丈なシトカトウヒが育てられたが、残念ながらいまでは現役の炭鉱は一つもないし、支柱を必要とする坑道もなくなっている。
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- 引用文献
- Ennos, Roland (2020) : The Age of Wood ── Our most useful material and the construction of civilization.
- Scribner, 2020.
- 水谷淳[訳]『「木」から辿る人類史 ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る』, NHK出版, 2021.
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