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串原正峯 (1793), p.496
右獲たる所の魚を海水を以て煮て食す。
貯置には干魚となして圍ひ置なり。
秋より冬は海上荒て漁獵なりがたき故、夏中飯糧になす草を取て貯置なり。
取たる時直にも食す。
これも汐水にて煮て食するなり。
右草飯糧に貯ゆるには、能干て臼にて搗はたきて、糟をはかためて餅となし、粉をば水干して葛のことく製し貯置なり。
食するには是を丸め、魚油にて煮て食す。
又は湯煮にしても喰ふ事なり。
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松浦武四郎 (1858), p.628
余はクツタラより山越なしてヌツケへツえ出たり。
此川惣て魚類少し。
鯇・チライ・桃花魚・雑喉は有。
鮭は甚まれなり。
依て老婆、女の子等は畑作を以て生活す。
粟・稗・大根・蕪・呱吧芋・隠元・てなし小豆・大豆また芥子を作りしを見たり。
南瓜・胡瓜は頗るよく出来ぬと語りたり。
また山草原にして蕎麦葉貝母わけで多し。
此地の半喰料にも当るよし也。
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高倉新一郎 (1974 ), p.42
アイヌは漁猟を主とし、
南部の比較的暖かい地方、石狩から日高地方にかけては、きわめて粗放な農業を営んでいて、
手に入るものを食べていた。
それでも、主なものは
春に産卵のために大群をなして海岸に寄せてくるにしん、
夏に川をさかのぼってくるます類、
秋に産卵のために川をさかのぼる鮭、
冬の猟の対象である鹿
などであり、それに
とど・あぎらしなどの海獣
が加えられていた。
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高倉新一郎 (1974 ), p.47
アイヌは、冬季または携帯用に、魚肉・獣肉を細くさいて大量にたくわえた。
干しにしん・身欠きにしんなどと同じである。
アイヌは乾燥以外には、たとえば塩蔵法などは知らなかった。
山菜も乾燥させてたくわえたが、
うばゆり・くろゆりなどの根の澱粉をとってたくわえた。
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狩猟採集は,収獲/収穫に波がある。
収獲/収穫したものは,保存される。
一度に食べられないということもあるが,主は収獲/収穫の無いときの食べ物にするためである 。
また,山野の植物は,「野菜」とは違う。
食害する動物に対する防衛から,毒をもっている。
食べるためには,毒抜き (「アク抜き」) の処理をしなければならない。
かくして,アイヌ料理は,基本的に保存食材の料理である。
狩猟採集生活に対し「新鮮な食材」を想うのは勘違いである。
実際, 「新鮮な食材」は,むしろ現代人の特権である。──スーパーには生産者から届いて間もない食材が並んでいる。
引用文献
- 串原正峯 (1793) :『夷諺俗話』
- 高倉新一郎編『日本庶民生活史料集成 第4巻 探検・紀行・地誌 北辺篇』, 三一書房, 1969. pp.485-520.
- 松浦武四郎 (1858) :『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌』「戊午第三十八巻 東部 茂無辺都誌 全」
- 高倉新一郎[校訂], 秋葉実[解読]『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌 中巻』, 北海道出版企画センター, 1985, pp.609-634.
- 高倉新一郎 (1974 ) : 『日本の民俗 1北海道』, 第一法規出版社, 1974
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